論文メモの続き:The Third Homomorphism Theorem

前回の続きで実例を書いていきます。

$ \def\cat{\mathrm{++}} \def\hom#1{{#1}\mathrm{-}準同型} \def\leftwards#1{{#1}\mathrm{-}左方向} \def\rightwards#1{{#1}\mathrm{-}右方向} $

おさらい

今回の導出を追う上で必要になる知識を思い出します。

リストの第三準同型定理はざっくりいうと「ある処理が foldr でも foldl でも書けるなら分割統治で書き換えられる」という定理なのでした。それを証明する道中でいくつかの性質も確認しました。

定義(リストの準同型): 二項演算 $\odot$ に対してリスト上の $h$ 関数が以下の条件を満たすとき、 $h$ を $\hom{\odot}$ という

\[ h\ (x \cat y) = h\ x \odot h\ y \]

結合的な演算子 $\odot$ とその単位元 $e$ に対して $hom\ (\odot)\ f\ e$ と書いて、 $\hom{\odot}$ な $h \circ [\cdot] = f$ である(一意な)関数 $h$ を表わす。

定義(左方向関数): $h: List a \to b$ が二項演算子 $\oplus: a \times b \to b$ に関して以下の条件を満たすとき、 $h$ を $\leftwards{\oplus}$ という。

\[ h ([a] \cat y) = a \oplus h\ y \]

$\leftwards{\oplus}$ 関数 $h$ が $h\ [] = e$ を満たすとき、 $foldr\ (\oplus)\ e$ と書く。このとき $h$ は一意である。

ここで $foldr$ の重要な性質を提示します。 $\cat$ の $foldr$ は2つの $foldr$ に分解できるということ。

\[ foldr\ (\oplus)\ e\ (x \cat y) = foldr\ (\oplus)\ (foldr\ (\oplus)\ e\ y)\ x \]

左方向関数と同様に、右方向関数も定義できます。

定義(右方向関数): $h: List\ a \to b$ が二項演算子 $\otimes: b \times a \to b$ に関して以下の条件を満たすとき、 $h$ を $\rightwards{\otimes}$ という。

\[ h\ (x \cat [a]) = h\ x \otimes a \]

左方向関数と同様に $foldl$ も導入しましょう。 $\rightwards{\otimes}$ 関数 $h$ が $h\ [] = e$ を満たすとき、 $foldl\ (\otimes)\ e$ と書く。このとき $h$ は一意である。

左方向関数と同様に、 foldl には重要な性質があります。

\[ foldl\ (\otimes)\ e\ (x \cat y) = foldl\ (\otimes)\ (foldl\ (\otimes)\ e\ x)\ y \]

です。

補題1: 全ての計算可能で全関数である、列挙可能な定義域をもつ $h$ に対して、 計算可能(だが部分関数である可能性もある)関数 $g$ が存在して $h \circ g \circ h = h$ を満たす。

定理(第三準同型定理): リスト上の関数 $h$ が左方向かつ右方向であるとき、 $h$ は準同型である。

それと前回の内容には含まれていませんが $foldr$ と $foldl$ の追加の性質についても確認しておきます。

\[ \begin{align} foldr\ (\oplus)\ x\ (b:y) & = b \oplus\ foldr\ (\oplus)\ x\ y \\
foldl\ (\otimes)\ x\ (b:y) & = foldl\ (\otimes)\ (x \otimes b)\ y \end{align} \]

これらを元に進めていきます

実例:ソート

挿入ソート($O(n^2)$)をリストの第三準同型定理(など)を用いてマージソート($O(n\log n)$)へと変換していきます。

ソートは左方向かつ右方向

ソートは $ins$ を用いて $foldr$ を使って実装できるので左方向です。

\[ sort\ = foldr\ ins\ [] \]

ここで $ins$ の定義は以下です。

\[ \begin{align} ins\ a\ [] & = [a] \\
ins\ a\ (b:x) & = \begin{cases} a : ins\ b\ x &, \mathrm{if}\ a \le b \\
b : ins\ a\ x &, \mathrm{otherwise} \end{cases} \end{align} \]

同時に右方向でもあります。 何故なら ins の引数を逆にした ins' を用いて foldl で書けるからです。

\[ \begin{align} sort\ &= foldl\ ins’\ [] \\
ins’\ x\ a &= ins\ a\ x \end{align} \]

リストの第三準同型定理の適用

$sort$ が右方向かつ左方向であることが分かったので、リストの第三準同型定理より $sort$ はリストの準同型です。つまり、ある二項演算 $\odot$ を用いて以下のように書けるということです。

\[ sort (x \cat y) = sort\ x \odot sort\ y \]

リストの第三準同型定理を証明する中での補題1の使い方を思い出すと $\odot$ は $sort \circ unsort \circ sort$ を満たす関数 $unsort$ を用いた以下の定義が条件を満たします。

\[ u \odot v = sort (unsort\ u \cat unsort\ v) \]

条件さえ満たせば $unsort$ は何でもいいので $id$ を選びます。すると $\odot$ が簡単になります。

\[ u \odot v = sort (u \cat v) \]

まとめると、 リストの第三準同型定理を使えば $sort$ は以下の等式を満たすことが分かります。

\[ sort (x \cat y) = sort(sort\ x \cat sort\ y) \]

…あれ?あんまり簡単になってる気がしませんね。実際効率は悪いです。そこでここから効率化していきます。 $\odot$ に渡るリストがソート済みであることに着目すれば効率化できそうです。

$\odot$ の効率化

リスト $u$ がソート済みである場合 $u = sort\ u$ であることに注目しましょう。 その上で $\odot$ への引数 $u$ と $v$ がソート済みであることに着目して式変形していきます。

\[ \begin{align} u \odot v & = sort (u \cat v) & (定義より) \\
& = foldl\ ins’\ []\ (u \cat v) & (sortは右方向より) \\
& = foldl\ ins’\ (foldl\ ins’\ u) v & (foldlの性質より) \\
& = foldl\ ins’\ (sort\ u) v & (sortは右方向より) \\
& = foldl\ ins’\ u\ v & (uはソート済みより) \\
& = merge\ u\ v & (merge = foldl\ ins’ と定義) \end{align} \]

最後に $foldl\ ins’$ のことを $merge$ と呼ぶようにしました。この $merge$ はマージソートで使われるマージと同じ挙動をします。実際、以下の2つ事実から確認できます。

\[ \begin{align} merge\ u\ [] & = foldl\ ins’\ u\ [] \\
& = [] \\
merge\ u\ (b:v) & = foldl\ ins’\ u\ (b:v) \\
& = foldl\ ins’\ (ins’\ u\ b)\ v \\
& = merge\ (ins’\ u\ b) \end{align} \]

これは $u$ がソート済みであるという仮定の下簡易的に使われる $merge$ の実装と同じものです。 ただし簡易的にと書いた通りこれまた効率は悪いので $merge$ も効率化しましょう。

$merge$ の効率化

$merge$ は $merge\ u\ v$ の形で使われていて、 $u$ がソート済みであれば正しい実装になっていそうなことを確認しました。ここでは $v$ もソート済みであることを用いて効率化します。

値 $a$ とリスト $v$ について $v$ の全ての要素が $a$ 以上であることを $a \le v$ と表わすことにします。

補題3: 値 $a$ 、 リスト $x$ 、 $y$ について $a \le x$ かつ $a \le y$ であるとき以下が成り立つ

\[ foldl\ ins’\ (a : x)\ y = a : foldl\ ins’\ x\ y \]

証明:数学的帰納法による。 任意の値 $a$ リスト $x$ について考える。 $y = []$ の場合、両辺ともに $a:x$ になる。 $y’$ の場合に成り立つとして $y = b : y’$ の場合について考える。

\[ \begin{align} foldl\ ins’\ (a:x)\ (b:y’) & = foldl\ ins’\ (ins’\ (a:x)\ b)\ y’ & (foldlの性質より) \\
& = foldl\ ins’\ (a : ins’\ x\ b)\ y’ & (ins’のa \le bより) \\
& = a : foldl\ ins’\ (ins’\ x\ b)\ y’ & (帰納法の仮定より) \\
& = a : foldl\ ins’\ x\ (b:y’) & (foldlの性質より) \end{align} \]

補題を証明したので $merge$ の性質を確認していきます。リスト$u$ 、 $v$ をソート済み、値 $a$ 、 $b$ を $a \le u$ 、 $b \le v$ を満たすとして $merge\ u\ []$ 、 $merge\ []\ v$ 、 $merge\ (a:u)\ (b:v)$ について考えます。

$merge\ u\ []$

\[ \begin{align} merge\ u\ [] & = foldl\ ins’\ u\ [] & (mergeの定義より) \\
& = u & (foldlの定義より) \end{align} \]

$merge\ []\ v$

\[ \begin{align} merge\ []\ v & = foldl\ ins’\ []\ v & (mergeの定義より) \\
& = sort\ v & (sortは右方向より) \\
& = v & (vはソート済みより) \end{align} \]

$merge\ (a:u)\ (b:v)$

\[ \begin{align} merge\ (a:u)\ (b:v) & = foldl\ ins’\ (a:u)\ (b:v) & (mergeの定義より) \\
& = foldl\ ins’\ (ins’\ (a:u)\ b)\ v & (foldlの性質より) \end{align} \]

ここから $a \le b$ と $a \gt b$ で場合分けします。

$a \le b$ の場合。 仮定より $a \le u$。$a \le b$ と仮定より $a \le v$。さらに $a \le ins’\ u\ b$ がいえます。

\[ \begin{align} foldl\ ins’\ (ins’\ (a:u)\ b) v & = foldl\ ins’\ (a : ins’\ u\ b)\ v & (ins’のa \le b)\\
& = a : foldl\ ins’\ (ins’\ u\ b)\ v & (補題3より) \\
& = a : foldl\ ins’\ u\ (b:v) & (foldlの性質より) \\
& = a : merge\ u\ (b:v) & (mergeの定義より) \end{align} \]

$a \gt b$の場合。 仮定より $b \le v$。 $b \lt a$ と仮定より $b \lt u$。

\[ \begin{align} foldl\ ins’\ (ins’\ (a:u)\ b) v & = foldl\ ins’\ (b:a:u)\ v & (ins’のa \gt b)\\
& = b : foldl\ ins’\ (a:u)\ v & (補題3より) \\
& = b : merge\ (a:u)\ v & (mergeの定義より) \end{align} \]

総合すると、 $merge$ は引数が2つともソート済みである場合以下の性質を持つことが分かります。

\[ \begin{align} merge\ []\ v & = v \\
merge\ u\ [] & = u \\
merge\ (a:u)\ (b:v) & = \begin{cases} a : merge\ u\ (b:x) &, \mathrm{if}\ a \le b \\
b : merge\ (a:u)\ v &, \mathrm{otherwise} \end{cases} \end{align} \]

これはそのまま関数として定義できて、よくみるマージソートのマージ関数そのものですね。

こうして挿入ソートからマージソートが導出できました。

まとめ

リストの第三準同型定理やらなんやらを使う実例として挿入ソートをマージソートに運算できることを示しました。

Written by κeen