io_uringで高速IO処理(!)
κeenです。前回の記事にもうちょっと実験を加えたのでその結果を書き留めます。
前回の結果
前回の結果を貼っておきます。
ベンチマーク対象は標準ライブラリの write
(std)、io_uringの Write
(uring)、io_uringのfdやバッファの事前登録を使った WriteFixed
(uring’)で、それぞれ4KiBのバッファを使って5GiB分書き込むコードでした。その結果が以下です。
name | time(ms) |
---|---|
std | 2031 |
uring | 4486 |
uring' | 1917 |
M.2のNVMe SSD x 4の上にbtrfsでRAID 5を組んだファイルシステム上で実験しており、Linuxカーネルは5.8.0でした。
公平性の調整
ネタバレになるですが、キャッシュの具合やファイルが残ってるかどうかで速度が結構変わるのでベンチマーク後にファイルは削除し、ベンチマークの間に sync()
を挟むことでキャッシュの影響をなくすようにしました。
Linuxのアップデート
本件とは別の事情で最新版のLinuxを使う用事が発生したのでLinux 5.11.0を使っています。リリースノートを見るとbtrfsの高速化なども含んでいるので一応ベンチマークを取り直してみます。
name | time(ms) |
---|---|
std | 1779 |
uring | 5088 |
uring' | 2097 |
stdは速くなった一方uringはむしろ遅くなりましたね…。まあ、それぞれ1回しか測ってないのであんまり比べてもしょうがなさそうですが。
パラメータチューニング
前回の記事を書いた直後くらいに元ScyllaDBの中の人が書いたブログをみつけました。
Modern storage is plenty fast. It is the APIs that are bad. | by Glauber Costa | ITNEXT
バッファサイズなどをいじると速くなるよとのことです。ページサイズである4KiBが最適とばかり思っていたので意外でした。バッファサイズを512KiBにし、io_uringのsubmitするバッチサイズを1024から64に減らしたのが以下のベンチマークです。
name | time(ms) |
---|---|
std | 1472 |
uring | 1668 |
uring' | 1527 |
stdの速度向上が目覚しいですね…。
Sync
上記のベンチマークはシンプルに write
してるだけです。OSがファイルへの書き込みをキャッシュするので実はストレージには大した量の書き込みが走っていません。普通はソフトウェア的にはそれでいいんですが、今回の目的の1つにNVMe SSDの特性を知るというのがあるので勿体無いですね。ストレージへの書き込みまで含めて実験してみましょう。
ストレージにまで書き込むには、ざっくりファイルを開くときに O_DIRECT | O_SYNC
をつける方法と、書き込みが終わったら fsync
を呼ぶ方法があるようです。io_uringにも fsync
に対応する命令はあるので両方ともベンチマークできそうです。試してみましょう。
O_DIRECT | O_SYNC
をつけるのは標準ライブラリを使ったコードでもio_uringを使ったコードでも共通で、以下のようにやります。
let mut opt = OpenOptions::new();
opt.custom_flags(libc::O_DIRECT | libc::O_SYNC);
// オプションからファイルを作る
opt.write(true).create(true).open(path)
本当はファイルを開くのもio_uringでやることもできるんですが、どの途ファイルが開かれたのを待たないとIOを開始できないので普通にブロッキングなシステムコールを使ってます。
fsync
は標準ライブラリとio_uringで異なります。標準ライブラリなら sync_all
です。
file.sync_all()?;
io_uringなら Fsync
オペコードを使います。
unsafe {
let entry = Fsync::new(Fd(file.as_raw_fd())).build();
sq.available()
.push(entry)
.map_err(|_| io::Error::new(io::ErrorKind::Other, "failed to push entry to sq"))?;
}
submitter.submit()?;
それぞれでベンチマークを走らせてみましょう。
O_DIRECT | O_SYNC
name | time(ms) |
---|---|
std | 84190 |
uring | 7290 |
uring' | 3196 |
fsync
name | time(ms) |
---|---|
std | 3281 |
uring | 3430 |
uring' | 2781 |
全体的に uring’ の優秀さが目立ちますね。そして O_DIRECT | O_SYNC
は特にstdで圧倒的に遅いです。ある意味で私が見たかったのはこのベンチマークだった気がします。 fsync
についてはどれも最終的に一気に書き出すコードになっているのでそこまで差はつかないようです。
Fallocate
先に書いた通り、前のベンチマークで作ったファイルが残ってるかどうかが速度に影響しました。恐らく書き足していくとストレージ上のファイルを大きくする処理が入って遅くなるのでしょう。今回は書く量が5GiBと先に決まっているのであらかじめファイルサイズを適切に変更してから書き出してみましょう。
ファイルサイズをあらかじめ確保するのは fallocate
、 posix_fallocate
、 truncate
などのシステムコールがあるようです。今回みたいにストレージ上の領域の確保を目的とするなら fallocate
/ posix_fallocate
の方が向いているらしいですが、まあ truncate
でも大丈夫でしょう。
標準ライブラリなら File::set_len
が使えます。
file.set_len(TOTAL as u64)?;
これはソースを読むとLinuxでは truncate
を呼んでいるようでした。適切とされる fallocate
ではありませんが細けぇことはいいんだよ!
io_uringなら Fallocate
オペコードが使えます。
let entry = Fallocate::new(Fd(file.as_raw_fd()), TOTAL as i64).build();
sq.available()
.push(entry)
.map_err(|_| io::Error::new(io::ErrorKind::Other, "failed to push entry to sq"))?;
submitter.submit()?;
特に確認はしてないですが名前からして fallocate
相当のオペコードだと信じていいんじゃないでしょうか。
ということで工夫なし、fsync
、 O_DIRECT | O_SYNC
のそれぞれについて fallocate
してから書き込みを開始したもののベンチマークもとってみます。
fallocate
name | time(ms) |
---|---|
std | 1376 |
uring | 1585 |
uring' | 1426 |
fallocate
+ O_DIRECT | O_SYNC
name | time(ms) |
---|---|
std | 80043 |
uring | 12501 |
uring' | 2520 |
fallocate
+ fsync
name | time(ms) |
---|---|
std | 3337 |
uring | 3425 |
uring' | 2835 |
素の write
と fsync
ではあまり効果がなさそうですが O_DIRECT | O_SYNC
と一緒なら fallocate
しておいた方がかなり速いですね。特に、 uring’ を fallocate
+ O_DIRECT | O_SYNC
で走らせたときがストレージへの書き込みまで含んだ処理の中で最速になります。 uring が何故か遅くなってるのはよく分かりません。
まとめ
前回雑にベンチマークを取った結果を見直し、OSのキャッシュやストレージ上のファイル領域の確保まで踏み込んだベンチマークをとりました。ただのwriteだと依然シンプルに write
を走らせる方が速かったものの、ストレージ上の領域への書き込み完了まで含めた処理だとio_uringを工夫して使った方が速いという結果になりました。
uringでfallocateした方が遅くなるなど多少不可解な挙動はありましたがひとまず私は満足しました。今回のコードは前回同様こちらに置いておきます。