Rustのモジュールの使い方 2018 Edition版

このエントリーはRust Advent Calendar 20187日目の記事です。

κeenです。Rust 2018が来ましたね。最近本業も副業(?)も大詰めで中々時間がとれずAdvent Calendarに遅刻してしまいました。 それはさておき、私はRustのモジュールの使い方を過去に書きました。 この記事は中々好評だったようですが、状況が変わりまして2018 Editionでモジュールが大幅に変更され、分かりやすくなりました。 巷に2018での変更点は多く喧伝されていますが2015との差分ばかりで、今からモジュールシステムを学ぶ方はまず複雑な2015を理解してから差分を読んで、簡単な2018を理解しないといけなくなっています。 そこで2018からはじめて学習する方向けにモジュールシステムの解説をしようと思います。

とりあえずサンプルプロジェクトを作ります。

$ cargo new module2018

エライのは lib.rsmain.rs

モジュールの話をする前にクレートの話をしないといけません。 クレートはRustのプログラムの一番大きな単位です。 大きく分けてライブラリを作るlibクレートと実行可能ファイルを作るbinクレートがあります。

libクレートならばlib.rsが、binクレートならばmain.rsがルートにあたるファイルです。ここから辿れるモジュールが全てです。プロジェクトにファイルが存在していてもこれらから辿れなかったらコンパイルされません。

モジュールの作り方は2種類

  1. ファイルの中にインラインで作る
  2. 1ファイルで作る

のやり方があります。あと別解もあります。 1.はそんなに使われなくて、説明のために1ファイルにまとめたい時や、可視性でアレコレする時のテクニックなんかに使われます。

2.のファイルで作る時はまず以下のようにファイルを作ります。

$ tree src
src
├── lib.rs
└── new_module.rs

そして lib.rs の中で以下のようにmodで参照してあげれば使えます。

mod new_module;

サブモジュールをディレクトリで作る

モジュールは入れ子にできます。 new_module.rs のファイル内に書く方法もありますがここではディレクトリで作る方を紹介します。 以下のようにnew_module.rsの他に new_module/new_submodule.rs を用意します。

$ tree src
src
├── lib.rs
├── new_module
│   └── new_sub_module.rs
└── new_module.rs

そして new_module.rs に以下を書いてあげます。

mod new_sub_module;

すると src/new_module/new_sub_module.rs の中身が new_module のサブモジュールになります。

別解: 2015の遺産

new_module.rs の代わりに new_module/mod.rs も使えます。多分後方互換のために残してるんですかね。 先の例でいくと以下のような形です。

最初のモジュールを作る例は以下のようにも書けます。

$ tree src
src
├── lib.rs
└── new_module
    └── mod.rs

サブモジュールを作る例は以下のようにも書けます。 mod.rsmod new_sub_module; を書きます。

$ tree src
src
├── lib.rs
└── new_module
    ├── mod.rs
    └── new_sub_module.rs

昔はディレクトリを切ったら mod.rslib.rs の代わりの役割をしていたんですね。

兄弟モジュール同士の可視性

モジュールの身分

さて、次のように2つのモジュールを作ってみましょう。lib.rsにはmodule_aのみmod宣言しておきます。

$ tree src
src
├── lib.rs
├── module_a.rs
└── module_b.rs

lib.rs

mod module_a;

この状態でmodule_a.rsmodule_bをサブモジュールとして宣言してみましょう。

mod module_b;

これをコンパイルすると

$ cargo build
   Compiling module2018 v0.1.0 (/home/shun/Rust/module2018)
error[E0583]: file not found for module `module_b`
 --> src/module_a.rs:1:5
  |
1 | mod module_b;
  |     ^^^^^^^^
  |
  = help: name the file either module_a/module_b.rs or module_a/module_b/mod.rs inside the directory "src"

error: aborting due to previous error

For more information about this error, try `rustc --explain E0583`.
error: Could not compile `module2018`.

To learn more, run the command again with --verbose.

と怒られます。一番エラいのはlib.rsですから、身分の低い module_aではmod宣言出来ません。

モジュールのパスネーム

同じディレクトリ構成で、今度はlib.rsmodule_amodule_b両方をmod宣言しておきます。

$ tree src
src
├── lib.rs
├── module_a.rs
└── module_b.rs

lib.rs

mod module_a;
mod module_b;

ついでに中身を追加しましょう。module_a.rsに以下を書きます。

pub fn name() {
    println!("module_aだよ");
}

この時、module_blib.rsから見た時とmodule_a.rsから見た時で名前が変わります。

lib.rsから見た時は、以下の2つが使えます。

use crate::module_a::name;  // 絶対パス
use self::module_a::name;   // 相対パス

キーワード crateself がでてきました。 crateというのは冒頭で説明したとおりRustのプロジェクトの単位です。ここでは「このプロジェクトの module_a に所属する name 関数」と指定しているわけです。 selfというのはディレクトリでいうところの.に相当します。「いまいるモジュールのサブモジュールの module_a に所属する name 関数」と指定しています。

module_b.rsからは同じく2つが使えますが、相対パスが変わります。

use crate::module_a::name;  // 絶対パス
use super::module_a::a;     // 相対パス

superも予約語で、..に相当します。 ファイルが同じディレクトリにいるので分かりづらいですが、libが1つ上の階層で、その下にmodule_aとmodule_bがぶら下がってる感じですね。

2020-06-07追記: 上記の絶対パスが crate::module_a::module_a::name になっていたのを crate::module_a::name に修正しました。 /追記

おじさんと隠し子

次のように、サブモジュールを作ってみます。

$ tree src
src
├── lib.rs
├── module_a
│   └── submodule.rs
├── module_a.rs
└── module_b.rs

lib.rsに以下を書きます。

mod module_a;
mod module_b;

module_a.rsに以下を書きます。

mod submodule;

さて、この時sumbmoduleから見たmodule_bの名前はどうなるでしょうか。もうお分かりかと思いますが、以下の2つです。

use crate::module_a;     // 絶対パス
use super::super::module_a; // 相対パス

じゃ、逆にmodule_bから見たsubmoduleはどうなるでしょうか。実は、module_bからsubmoduleは見えません(lib.rsからも見えません)。module_a1つで所帯を持っているので、子であるsubmoduleを外に出すかはmodule_aの一存で決まります。今回は隠し子にしている訳ですね。いくら兄弟モジュールとはいえ家庭にまでは入り込めないのです。

子供をちゃんと公開するには

module_a.rs

mod submodule;

となっていたモジュール宣言にpub を付けてあげて

pub mod submodule;

としてあげればOKです。そうするとmodule_bからも見えて、以下の2種類で参照出来ます。

use crate::module_a::submodule;
use super::module_a::submodule;

家庭裁判

モジュールは名前を変えられます。

mod module_a;
use self::module_a as a;

これで以後、 a というモジュールがあるかのように扱えます。 改名したものを公開したければ

mod module_a;
pub use self::module_a as a;

のように use の方に pub を付けてあげれば目的を達成できます。

木箱の外から

さて、今までは1クレート内での話でした。クレートの外から見るとどうなるでしょうか。

新たにmain.rsを追加しましょう。先程 lib.rsmain.rsがエライと話しましたが、どちらも別々のクレートを作るのでmain.rsは完全にクレートの外です。

こんな感じですね。

$ tree src
src
├── lib.rs
├── main.rs
├── module_a
│   └── submodule.rs
├── module_a.rs
└── module_b.rs

lib.rs は以下です。

mod module_a;
mod module_b;

module_a.rs は以下です。

pub mod submodule;

まず、binクレートなのでmain関数も必要ですね。

main.rs

fn main() {}

では、module_bはどういう名前で見えるでしょうか。見えません。一番エライlib.rsmodule_bpubにしていないのでクレートの外からは見えなくなっています。 見たければ lib.rs を以下のようにします。

mod module_a;
pub mod module_b;

mod module_b の前に pub が付きました。

さて、これでmain.rsからどのように見えるかというと、以下のようになります。

use module2018::module_b;

crate:: なしでアクセスしてます。 crate:: がなかったら外様という扱いなんですね。

外部クレートのリネーム

Cargo.toml でできます。今回は1クレートで説明している関係で詳しく説明できません。 ドキュメントを参照してください。

福は内

module2018 を内部のモジュールのように扱う方法もあります。 2015まではこの方法しかありませんでした。 extern crate module2018; と、 extern crate 宣言してあげます。 するとあとは内部モジュールと同じようにアクセスできます。

extern crate module2018;

use crate::module2018::module_b; // crate::.. と内部モジュールのように扱える

これは extern crate したモジュールのサブモジュール扱いになっています。UNIXファイルシステムに例えるとマウントしてるようなイメージですね

因みにextern crate を使ったリネームもできます。

extern crate module2018 as m18;

use crate::m18::module_b;

家出

さて、同じようにlib.rsmodule_apub modすればmodule::module_a::submoduleも参照出来るようになります。ところで、例えばmodule_aは外に出さずにsubmoduleだけを公開したい時にはどうしたらいいでしょうか。そんなケースあるのかと疑問に思うかもしれませんが、あります。同じクレートであってもpubにしないとサブモジュールにアクセス出来ないことを思い出して下さい。そうすると

pub mod submodule;
pub mod internal_submodule_a;
pub mod internal_submodule_b;

みたいなケースが発生するのは想像出来ると思います。そういう時は、lib.rs側でどうにかいじれます。

mod module_a;
pub mod module_b;

となっていると思いますが、

mod module_a;
pub mod module_b;

pub use self::module_a::submodule;

と、pub use を加えてあげることでmodule_aの下から出すことが出来ます。

これをmain.rsから使う時は

use module2018::submodule;

のように名字のmodule_aが取れます。

さらに踏み込めば、useasを使ってリネーム出来るのでlib.rsから以下のようにリネームuseしてあげれば

mod module_a;
pub mod module_b;

pub use self::module_a::submodule as module_c;

main.rs から以下のように参照することも出来ます。

use module::module_c;

完全に籍を外れて名前の上では別人ですね。

実装する時の都合とAPIとして公開する時の都合が違うので公開用にいじれる作りになってるんですね。

クレート内限定公開

クレート内からは自由に参照したいけど外部には公開したくないこともあると思います。そんなときはpub(範囲) が使えます。 一番よく使うのはpub(crate) でしょう。クレート内全体からはアクセスできるけど外部クレートからはアクセスできなくなります。 このように使います。

pub(crate) fn name() {
    println!("module_aだよ");
}

もうちょっと色々書けるのですがこのくらいにしておきましょう。

lib.rsとmain.rs

上ではlib.rsを使って説明しましたが、main.rsでも同じことが出来ます。

さて、ここからはスタイルの話ですが、私がRustを書く時はmain.rsの中にmodを書くことはないです。必ずlib.rsを作って、そこでライブラリとしてまとめてからmain.rsで使います。「アプリケーションはアプリケーションを記述するための巨大なDSLとそれを使った小さな実装からなる」という思想ですね。明示的に境界を作ることで自然とAPIを設計出来るのでコードが整理しやすくなります。

まとめ

  • lib.rsmain.rsが一番エラい。
  • mod で「モジュールがある」宣言
  • pub mod で加えて上位のモジュールにも公開
  • crateselfsuperの予約語
  • pub use で改名

公式ドキュメントも参考にして下さい

Written by κeen
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